ある時、私は担当している患者さんのリコール率を過去3年間にわたって調査しました。
その結果、平均リコール率は95%を超えており、私の期待を大きく上回るものでした。真面目に通院してくださる患者さんには本当に感謝の気持ちでいっぱいです。
通常、患者さんは定期的なクリーニングやメンテナンスのために来院します。しかし、治療が終了した後も口腔の健康を維持するために定期的な来院を勧めると、多くの場合「痛い時だけ」来院するというケースが多いです。ホームケアももちろん重要ですが、診療室でのプロフェッショナルケアがなければ健康な口腔を守るのは難しいと感じています。
そのため、私は多くの患者さんが定期的にメンテナンスに通っていただけるように、いくつかの工夫をしています。今回はその一つとして、アポイントメントの取り方についてお話ししたいと思います。
(1)治療終了後の第1回目のアポイントは1ヵ月後にする
まず、治療終了後の最初のアポイントは1ヵ月後に設定します。数ヵ月後の予定は不確定なことが多いため、患者さんに「予約は電話で」と伝えても、時間が経つうちに1年が過ぎてしまうことがよくあります。
初回の定期検診やメンテナンスのアポイントは忘れられたり、後回しにされがちです。1ヵ月後の予定であれば立てやすく、キャンセルや変更も少なくなります。これにより、患者さんは通院のきっかけをつかみやすくなります。
(2)自己紹介を必ず行う
担当する場合は自己紹介をするか、担当歯科医師から紹介してもらうようにしています。メンテナンスを受けたことのない患者さんは、何をされるのか不安に感じることがあります。そのため、治療終了時か初回メンテナンス来院時に、歯科衛生士の役割や名前、メンテナンスで行う内容を丁寧に説明します。
重要なのは、今後も自分が担当し、患者さんと一緒に口腔ケアを進めていくということを伝えることです。
これらの工夫により、私は多くの患者さんに安心して通院していただける環境を整えることができています。患者さんの口腔健康を守るために、今後も引き続き努力を続けていきます
(3)時間を必ず守る
忙しい現代社会において、時間管理は非常に重要です。
アポイントの時間を守るのは当然ですが、私は終了時間も厳守するよう心掛けています。多くの患者さんは「歯医者は待たされる」というイメージを持っています。
痛みを取り除くためには「待つ」ことも我慢できますが、健康維持のための来院で「毎回待たされる」や「終了時間が読めない」という状況が続くと、患者さんの通院意欲は低下してしまいます。例えば、「30分で終わります」「1時間の予定で来てください」と具体的な時間を伝えることで、患者さんが予定を立てやすくなります。
(4)無断キャンセル・予約変更はカルテ(衛生士業務記録)に記録する
無断キャンセルや予約変更があった場合、その理由をカルテに記録するようにしています。遅刻や予約変更、またはこちらからお願いした変更もすべて記録に残します。
これにより、患者さんの時間の取り方やメンテナンスへの期待度が次第にわかってきます。また、体調不良なども把握でき、来院時の会話のきっかけとなり、信頼関係の構築に役立ちます。診療室の都合で変更をお願いした場合は、歯科衛生士だけでなく受付のスタッフにもお詫びの言葉を伝えてもらうようにしています。
これらの取り組みを通じて、私は患者さんとの信頼関係を築き、安心して通院していただける環境を整えています。患者さんの口腔健康を維持するために、今後も引き続き努力を重ねていきます。
(5)アポイントは個人に合わせたバリエーションをもつ
歯科衛生士として、次回のアポイントを3ヵ月後に設定するのが理想的だと思っても、患者さんには1ヵ月後や4ヵ月後を希望する場合もあります。
私は必要性を説明したうえで、
可能な限り患者さんの希望を尊重しています。また、1回にかかる時間についても、短時間で済ませたい方や、ゆっくり丁寧にケアしてほしい方、それぞれの要望に応じています。理想を追い求めるあまり無理をさせて来院が途切れるよりも、患者さんの希望に沿って調整することが重要です。
(6)続けられる環境をつくる
アポイントの間隔と同様に、メンテナンスの内容も個々の患者さんに合わせて調整しています。
ホームケアを頑張っている方にはその成果を褒め、ホームケアが苦手な方にはとにかく来院を続けてもらい、一緒にケアを進めていくことが大切です。忙しい方には、無理をせずサポートすることを伝え、歯科治療に恐怖心がある方には痛みを伴う処置を避けるようにしています。時にはチェアタイムの半分をおしゃべりに費やすこともありますが、その結果、歯科が苦手だった方も何年も定期的に通ってくださるようになっています。
これらの工夫を通じて、私は患者さんが無理なく通院を続けられる環境を整えています。患者さん一人ひとりのニーズに応じたケアを提供することで、口腔健康の維持をサポートし、信頼関係を築いていくことが目標です。今後もこの取り組みを続け、患者さんが安心して通院できる環境を提供していきたいと考えています。
(7)「私は特別!」という意識を持ってもらう
上記のような配慮を続けることで、メンテナンスに来院する患者さんは、待たされることなくスムーズに診療室に入り、「お風邪はいかがですか?」といった日常の会話や、「また○月ですね、お待ちしています」という挨拶を受けることができます。これは患者さんにとって、特別扱いされているという優越感を与えるものです。治療で来院する患者さんと差別しているわけではありませんが、この小さな優越感が、患者さんの通院意欲を高める一助となるでしょう。
私たちが日常でお気に入りのお店で特別に扱われたと感じた場合、再びそのお店を利用したいと思うように、患者さんも同じように感じるでしょう。リコール率を上げるためには、多額の費用をかける必要はなく、基本的な関係を築くことが大切だと思っています。
(8)メンテナンスの重要性を認識していただく
メンテナンスの意義としては、「口腔内をきれいにする」や「病気の早期発見・治療ができる」といったことが挙げられますが、これを患者さんに正しく伝えなければ、メンテナンス患者の離脱を招いてしまいます。
例えば、「口腔内をきれいにするためにメンテナンスに来てください」とだけ伝えると、患者さんは「メンテナンスに来れば虫歯にならない」と誤解し、毎日の歯磨きがおろそかになる可能性があります。これでは、患者さんの口腔健康は守れませんし、結果として通院が面倒になり、メンテナンスに来なくなることもあります。また、医院側もメンテナンス時の歯石の除去に時間がかかり、業務の負担が増えてしまいます。
「病気の早期発見のためにメンテナンスに来てください」とだけ伝えると、治療箇所が見つからない場合、患者さんは通院をやめてしまうかもしれません。早期発見も重要ですが、そもそも病気を予防することが最も大切です。患者さんにメンテナンスの目的を「病気を見つけるため」ではなく、「口腔トラブルを予防するため」と理解してもらうことが必要です。
メンテナンスの意義は、患者さんが自身の口腔状態を把握し、口腔への関心を高めることにあります。これにより、患者さんの将来的な健康を守ることができます。「毎日の正しい歯磨きや生活習慣を意識した上で、自身の口腔内やホームケアに問題がないか確認するためにメンテナンスに行く」と理解してもらえるよう動機付けを行うことが、メンテナンス患者の離脱を防ぎ、リコール率を高めることにつながります。
以上の工夫を通じて、私は患者さんが安心して通院を続けられる環境を提供しています。個々の患者さんのニーズに合わせたケアを行うことで、口腔健康の維持をサポートし、信頼関係を築いていくことを目指しています。
今後もこの取り組みを続け、患者さんが安心して通院できる環境を提供していきたいと思います。